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避難通貨とは?その意味とリスク・オフ市場の判断基準・注意点

寄稿者
中田勇人
中田勇人
明星大学経済学部教授
一橋大学大学院を単位取得満期退学後、明星大学経済学部専任講師、同大学准教授を経て2020年から同大学教授。
最近の研究テーマは石油価格や為替レートショックが経済や資産市場に与える影響についてなど。

避難通貨という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

避難通貨とは金融危機のときの様に、金融市場が不安定なときに買われやすい通貨を指します。

避難通貨は、英語では“Safe haven currency”と言います。この“haven”という言葉は、2016年のパナマ文書暴露などで話題になった“Tax haven”(租税回避地)で知った方も多いかもしれません。

“haven”とは「船舶が避難可能な港」や「避難所」という意味です。そのため、Safe haven currencyは「危険を避けるために買われる通貨」という意味になるわけです。

近年、日本円は広く外国為替市場で避難通貨と見なされています。

2010年代には、欧州債務危機のような時期にしばしば円の一時的な急騰が起こりました。

リスク・オンとリスク・オフ

2013年から2018年まで日本銀行副総裁を務めた岩田規久男氏は、著書「日銀日記」で次のように回想しています。

「量的・質的金融緩和」政策を始めて以来、われわれを悩ませてきたのは、世界で何か不確実なことが起こるたびに「リスク・オン」が「リスク・オフ」に転換してしまい、過度の円高・株安となり、その結果、せっかく改善した投資家、企業、家計のマインドがデフレマインドへと悪化することである。

ここでは、円が避難通貨であることが、日本の金融政策に悪影響を及ぼしているという認識が示されています。

しかし、ここで出てきた「リスク・オン」、「リスク・オフ」とは何でしょうか?

先ほど、「金融市場が不安定なとき」と言いました。このようなとき、市場の投資家はよりリスク回避的になり、リスクの高い資産から低い資産へと投資対象を移そうとします。

このような動きをリスク・オフ(Risk-off)と呼びます。避難通貨とは、正確にはリスク・オフの時期に買われやすい通貨のことを指します。

我々は市場がリスク・オフになったことを、どのようにして判断すればよいでしょうか?

市場関係者がリスク・オフの判断基準とするのがVIX指数の急上昇です。

VIX指数はシカゴオプション取引所で取引されているS&P500(ニューヨーク株式市場の株価指数)のオプションの価格から算出されます。

株価指数のオプションとはいわば株価変動に対する保険なので、市場の見通しが不安定になるほど価値が高まります。

そのため、投資家のリスク回避度を測る指標を見なされているのです。

リスク・オフが生じたとき、避難通貨とは逆に売られやすい通貨を脆弱通貨と呼ぶこともあります。

避難通貨と脆弱通貨の境目はどこ?

現在、よく避難通貨として挙げられるのはスイスフランと日本円ですが、新興市場諸国通貨の多くは脆弱通貨に分類されます。

特にブラジル・レアルやトルコ・リラなどが脆弱な通貨としてよく挙げられるようです。

どのような要因が、避難通貨と脆弱通貨の違いを決めるのでしょうか?

過去の研究では、ある国の対外純資産ポジションがプラスである場合、その国の通貨が避難通貨になりやすいことが指摘されています。

例えば、国際金融市場が不安定な場合、日本の投資家が海外からの投資を引き上げるために、円高が生じると説明されることもありました。

しかし実際には、投資の流出入の変化とは関係なく円高が生じていると指摘されています。

また、マーケットで同じ通貨が常に避難通貨として機能する訳ではありません。

過去の研究によれば、日本円が避難通貨としてのステータスを強めたのは、世界金融危機以降とされています。ですので、今後もリスク・オフのときは円高と決めつけて動くことには慎重であるべきでしょう。

避難通貨の分析研究の最前線

また、先ほどは、市場のリスク・オフをVIX指数の上昇で判断すると説明しましたが、近年は、他にもリスク・オフにつながるような不確実性を測る指標が開発されています。

ノースウェスタン大学のベイカー教授らが開発した「政策不確実性指数(Economic Policy Uncertainty Index)」は、新聞の報道内容を定量化することによって政策の不確実性を測る指標で、近年注目が高まっています。

日本の政策不確実性についても、独立法人経済産業研究所(RIETI)でベイカー教授らと同様の手法で算出し、公開しています。

市場がリスク・オフになるか判断する際は、このような指標にも注目すると良いでしょう。

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